WELL認証とは、人の健康と快適性にフォーカスした空間評価システムです。
日本の働き方改革やコロナウィルス拡大により、建物と健康への関心が高まりから近年注目されています。
本記事では、WELL認証の概要や、v2の評価項目、導入メリットについてお伝えします。
また、WELL認証の必須要素であるバイオフィリアの導入について詳しく解説します。
WELL認証とは
WELL認証(英語:WELL Building StandardTM)とは、人の健康と快適性にフォーカスした空間評価システムです。
WELL認証における健康や快適性といった指標は、「ウェルビーイング」という概念を基準として設計されています。
ウェルビーイングとは
もともと社会福祉の用語で、世界保健機関(WHO)憲章の草案の中で、ウェルビーイング(well-being)という言葉が使われました。
WELL認証が生まれた背景
WELL認証は、アメリカのコンサル企業Delos(デロス)社によって2008年頃から開発が始まりました。
現在は、Delos社のCEOが創設した公益企業 IWBI(International WELL Building Institute)によって運営されています。
登録件数の推移
2015年時点では100件に満たなかった登録数も着々と数を伸ばし、現在では世界66カ国、5,275件のプロジェクトが登録されています。
日本でも72件の登録があり、そのうち10件が認証済みとなっています。(2020年1月現在)
日本では働き方改革の指標として注目
日本では働き方改革の推進に伴い、健康経営に注目する企業が増えてきました。
健康経営の施策や達成度をグローバルな指標で評価できることから、WELL認証に大きな関心が集まっています。
コロナ感染拡大により関心が高まる
世界的にはコロナウィルスの感染拡大によって、安全な空間・建物についての関心が高まります。
それに伴いWELL認証機関であるIWBIは、建築環境における人の健康と安全性に関する評価制度「WELL Health-Safety Rating」を2020年5月に発表しました。
認証に承認された建物は「WELL HEALTH-SAFETY RATED」シールを貼ることができ、安全性が担保された空間であることを証明することができます。
WELL認証の効果・メリット
WELL認証を取得することは、
- 働く人
- 企業の経営者
- ビルのオーナー
の三者にメリットがあります。
知的生産性向上・疾病リスクの低下
WELL認証取得に向けた取り組みは、働きやすく生産性の高い職場の実現につながります。
たとえば、オフィスに植物を置いたり、窓から自然の景色が見えると
- 働く人の疾病リスクが下がる
- 心身の疲労回復をサポートする
- 主観的な生産性の向上する
- 仕事の満足度が向上する
といった効果が見込めることが、研究の結果からわかっています。
健康経営で企業の魅力アップ
WELL認証の取得は、社員を大事にしている会社の証となり、企業の認知度や魅力アップにも貢献します。
また、WELL認証のコンセプトには、SDGsと関連が強いものも含まれています。
SDGs達成への貢献を示すことができるという面でも、企業のブランド力を高めることにつながります。
優秀な人材を確保につながる
日本では労働人口が少なくなっているのに対し、求人ニーズは上がっているため、報酬を高額にするだけでは優秀な人材が集まりにくくなっている現状があります。
さらに、働き方改革でワークライフバランスを重視するワーカーが増えています。
価値観の多様化、健康に関する関心の高まりから、快適な労働環境の提供が優秀な人材の確保につながります。
オペレーションコストの低下
オフィスの運用コストの内訳は、「人件費:賃料:光熱費=100:10:1」となるデータがあります。
コストの約9割は人件費であるため、人件費のかかっている労働者の生産性向上が、コスト効率化に最もつながります。
参考:リニューアルを視野に入れたFM領域の地球温暖化対策 p14|JFMAエネルギー環境保全マネジメント研究部会
建物としての価値が上昇
WELL認証取得は、建物の不動産価値上昇が期待できます。
令和元年に国土交通省が作成した報告書によると、不動産投資家・ビルオーナーの約8割が
「環境性、快適性、健康性に配慮することにより、不動産価値は高まる」
と回答しています。
理由としては
・事業収入の改善もしくは売却額が高くなることが見込まれる
・環境性、快適性、健康性に優れた不動産はESG投資の流れに沿っている
といった回答があり、WELL認証取得が不動産価値にプラスに働くことがわかります。
WELL認証の評価基準
WELL認証には、v1、v2、v2 pilot、communityなどの種類があります。
認証名 | 対象 | コンセプト数 | 現在の状況 |
WELL v1 | 建物 | 7 | 2020年12月31日で新規登録終了 |
WELL v2 pilot | 建物 | 10 | 2020年12月31日で新規登録終了 |
WELL v2 | 建物 | 10 | |
WELL community | 街・地域 | 10 |
このうち、「WELL v1」、「WELL v2 pilot」は2020年で新規登録を終了しています。
そのため本記事では、これから最も一般的となる「WELL v2」プロジェクトの評価要件について解説します。
なお、WELL v2 プロジェクトにも
- WELL プロジェクト
- WELL Core プロジェクト
の2種類がありますが、Core プロジェクトは、テナントビルのコア(共用)部分を対象としています。
評価システムは同じですが、テナントビルの特性を考慮して評価要件がやや異なりますので、Coreプロジェクトの評価項目の説明は割愛します。
WELL v2プロジェクトの評価項目
WELL v2では10のコンセプトとイノベーション項目から構成されています。
それぞれのコンセプトの下に中項目「Feature」、さらにその下に小項目の「Part」に分けられた要件があります。
各要件には健康に関する最新の医学研究結果が反映されるなど、科学的エビデンスに基づいた知見が取り入れられています。
必須項目と加点項目
中項目である「Feature」は必須項目と加点項目に分かれ、WELL認証を取得するためには必須項目24Feature、48Partすべてを満たす必要があります。
加点項目は合計213点満点。(10コンセプト部分で最大195点、イノベーション部分で最大18点)
加点項目をどこまで獲得できるかで、認証取得の可否と認証レベルが決まります。
なお、WELL認証は4半期ごとに評価項目の見直しされるため、更新が頻繁に行われます。
現在の最新版は2021年Q1ですが、日本語版はまだ出ていません。
最も新しい日本語版は、2018年5月31日のWELL v2パイロット版となっています。
WELL認証のランク
WELL v2認証のランクは以下のように設定されています。
認証レベル | 合計点 | 各コンセプト 最小点数 |
ブロンズ | 40 pts | 0 |
シルバー | 50 pts | 1 |
ゴールド | 60 pts | 2 |
プラチナ | 80 pts | 3 |
各コンセプト最小点数とは、10のコンセプトの加点項目での最低点数です。
プラチナランクを取得するためには、10コンセプト全てにおいて3点以上獲得し、かつ合計点が80点以上となる必要があります。
日本では、審査中を含め72件の登録がありますが、プラチナランクを獲得したのはこれまでで2件のみです。
(2021年1月現在)
WELL認証とバイオフィリア
WELL認証の必須要件として、自然との触れ合いがあります。
評価項目「MIND(こころ)」では、オフィスの執務エリアや会議室、共有スペースに自然要素を取り入れることを必須要件としています。
ここでいう自然要素とは、自然素材やサウンド、植物、水(噴水等)、自然景観などです。
参照:Standard | WELL V2 M02 Part1 Provide Connection to nature
執務スペースに観葉植物を置く、植栽や壁面緑化を取り入れることなどでクリアすることができます。
また、プラチナやゴールドなどの高いランクの認証を受けるためには、加点項目での得点が必要です。例えば、作業スペースのうち75%以上の席から植物が見える状態であれば加点対象となります。
さらに、屋外に水辺や緑地があり、社員がアクセスすることが奨励されていればこちらも加点対象となります。
参照:Standard | WELL V2 M09 Enhanced Access to Nature
植物などの自然要素をオフィス空間に取り入れることがなぜ評価されるのでしょうか。
それは、人間に「先天的に自然を好む性質=バイオフィリア(biophilia)」が備わっているからです。
そのバイオフィリアの概念を取り入れて自然と人間のつながりを高めた空間では、そこで過ごす人間の精神的、肉体的な幸福度を向上させたり、ストレスを低減し健康を促進するなど、様々な好影響を与えることが分かっています。 自然との触れ合いが「MIND(こころ)」を良好な状態に保つ1つの大きな要因となっているのです。
バイオフィリアの導入
オフィス全体のデザイン・設計の段階で、植物をはじめとした自然要素をどのように取り入れるか検討することが大切です。そうすることで以下のようなメリットがあります。
- 空間コンセプトに沿った取り入れ方ができる
どんな自然要素をどのように配置・導入してどんな効果を期待するか、デザイン・設計の段階で組み入れることで、コンセプトをより効果的に表現し、かつ一体感のある空間に作り上げることができます。 - 効果を最大限に引き出せる
空間の想定される用途や使い方、機能に応じて適切に自然要素を取り入れれば、自然とのつながりが高まり、前述した自然との触れ合いによって得られる効果を最大化できます。
私たちヒキダシ|GREEN COMPANYは、バイオフィリアという概念をデザインに組み込み、 オフィスの快適性、生産性、創造性、幸福感などを引き出す空間づくりをお手伝いします。 認証取得のために施主様やプランニング会社様と一体になり、 コンセプト立案、デザイン、施工、メンテナンスまでトータルで行います。 ご相談はお気軽にお問い合わせください。
参考文献・論文
Larsen L, Adams J, Deal B, Kweon B-S, Tyler E. Plants in the workplace the effects of plant density on productivity, attitudes, and perceptions. Environ Behav. 1998;30(3):261-281.
Wolf K, Krueger S, Flora K. Work and Learning – A Literature Review. Green Cities Good Heal. 2014. www.greenhealth.washington.edu. Accessed January 12, 2018.
WELL Building Standard の概要について – GBJ WELL WG 主査 (株)ヴォンエルフ シニアアドバイザー 川島 実
不動産鑑定評価における環境性、快適性、健康性の評価に関する検討業務 – 国土交通省