CASBEEウェルネスオフィス(CASBEE-Wellness Office)は、建物利用者の健康性、快適性の維持を支援する建物の性能、取組みを評価する認証制度です。
国土交通省が公表した「健康性、快適性等に関する不動産に係る認証制度のあり方についての取りまとめ」に準拠した評価システムとなっており、ウェルネスオフィスを略して「WO」と呼ばれる場合もあります。
こちらの記事では、CASBEEウェルネスオフィスの認証を目指している方のために、評価項目や取得メリットなどについてお伝えします。
CASBEEウェルネスオフィスの背景
CASBEEウェルネスオフィスの開発背景には、欧米のESG投資活発化と、働き方改革による生産性向上の要請があります。
ESG投資の活発化
ESG投資は欧米を中心に世界的潮流となりつつあり、企業の環境や社会に対する配慮に注目が集まっています。
ESG投資とは
海外では、建物の評価システムとして、BREEAM(イギリス)やLEED(アメリカ)などがあります。
日本でも同様に評価システムのCASBEEがあります。
このような認証システムは、主に建物の環境への配慮に対して評価を行っています。
しかし近年では、WELL認証など新たに「オフィスで働く人の快適性」に着目した評価システムも生まれています。
日本においても、不動産投資市場の成長のために「働く人」の快適性を評価する指標の整備が必要でした。
CASBEEウェルネスオフィスが開発された理由の一つに、このように海外のESG投資活発化によって企業へ注目があります。
低い労働生産性を改善
日本は先進国に比べて、時間あたりの労働生産性が低いことが問題となっています。
時間あたりの労働生産性は、OECD諸国でも平均水準より低く、先進7ヵ国中では最下位となっています。
参考:労働生産性の国際比較2020-公益財団法人日本生産性本部
労働人口が減る中で、優秀な人材確保のためにも、知的生産性の高まる快適な労働環境の整備が必要でした。
このような背景から、不動産投資市場の成長と知的生産性向上のために作られた評価システムが、CASBEEウェルネスオフィスです。
コロナによってウェルネスオフィス需要は加速
昨今のコロナ禍により、自身が感染しないだけでなく家族や同僚を感染させないためにも、予防意識が高まっています。それに伴い、オフィスでのウィルス対策にも注目が集まっています。
CASBEEウェルネスオフィスには、コロナウィルス対策専用の項目はありません。
しかし換気性能や空調設備に関する項目があり、高評価を目指す取り組みは、感染防止対策につながります。
参考:オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン-経団連
また、アフターコロナにおける長期的な視点でも、衛生的で健康的な環境づくりはとても重要です。
CASBEE-ウェルネスオフィスのスコアを公表することは、オフィスのウェルネス性を説明するだけでなく、ウィルス対策の取組状況の情報開示としても活用することができます。
CASBEEウェルネスオフィスのメリット
CASBEEウェルネスオフィスでは働く人にフォーカスしているため、認証取得に取り組むことで以下のようなメリットがあります。
- 執務環境の改善
- 知的生産性の向上
- 優秀な人材確保
- 不動産価値の上昇
知的生産性向上と健康増進の好循環
健康に配慮した設計をすることで、集中力の向上・コミュニケーションの活性化につながります。
集中力向上・コミュニケーション活性化の結果、作業効率が上がり知的生産性が向上につながります。
結果として作業時間が減ることで、さらに健康を守ることにつながります。
安心で安全な建築という土台の上で、この好循環を実現することが、CASBEEウェルネスオフィスの目的です。
不動産価値の上昇
さらに、CASBEEの認証を得ることは不動産価値の上昇も期待できます。
環境性能承認の取得の経済効果を調べた研究によると、
CASBEE評価が1ランクアップするにより、約1.7%の賃料が上昇するという結果が出ています。
環境へ配慮した建物は、今後も不動産価格に好影響を与えると考えられます。
評価項目と採点方法について
CASBEEウェルネスオフィスの評価項目は5つの大項目(健康性、利便性、安心安全性、運営管理、プログラム)から成っています。
大項目の下には中項目、小項目があり、それぞれに採点基準が細かく決められています。
採点基準と根拠資料
CASBEEウェルネスオフィスでは、多様な働き方ができ知的生産性の向上が見込まれるオフィスを高く評価します。
たとえば、Qw1.6.2「室内の植栽・自然とのつながり」に関する基準はこのようになっています。
レベル | 採点基準 |
レベル 1 | (該当するレベルなし) |
レベル 2 | 執務空間で植栽等の自然を感じることができない。 |
レベル 3 | 執務空間で植栽等の自然を部分的に感じることができる。 (オフィスの半数位の人が自席から植栽等を観ることができる) |
レベル 4 | (レベル3,5の中間的な取り組み) |
レベル 5 | 執務空間で植栽等の自然を全面的に感じることができる。 (自席、打ち合わせスペースのどこからでも植栽等を観ることができる) |
Qw1.6.2「室内の植栽・自然とのつながり」採点基準
CASBEEウェルネスオフィス2020年度版
なお、小項目ごとに採点基準を満たしている根拠を示す資料の添付が義務づけられています。
室内の植栽・自然とのつながり | 【 根拠資料 】 □ 執務空間内の写真 □ 執務空間内のイメージ写真・図等 □ 自席から見た屋外の植栽の状況がわかる写真など □ その他( ) [ (参考)主たる評価のポイント ] ・執務空間における植栽の有無 ・執務空間(自席など)から植栽等を感じる割合 |
CASBEEウェルネスオフィス 先行認証 根拠資料チェックリスト(2020年度版)
評価項目の詳細については、マニュアルが有料で販売されています。
CASBEE-ウェルネスオフィス 評価マニュアル(2020年版)
また、採点には専用ソフト(Excel)を使い、以下のページからダウンロードすることができます。
一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)
項目を入力することで得点が自動計算されます。
ランクとこれまでの認証事例
CASBEEウェルネスオフィスのランクは、CランクからSランクまでの5段階があります。
ランク | 評価 | 得点 |
Sランク | ★★★★★ | > 75 |
Aランク | ★★★★ | ≧ 65 |
B+ランク | ★★★ | ≧ 50 |
B-ランク | ★★ | ≧ 40 |
Cランク | ★ | < 40 |
現在(2021年2月1日)までに、CASBEEウェルネスオフィス認証された事例は30件となっています。
Sランク取得 | 16件 |
Aランク取得 | 9件 |
B+ランク取得 | 5件 |
CASBEEウェルネスオフィス先行認証とは
CASBEEの中でも、WO(ウェルネスオフィス)はまだ開発されて間もない評価制度なため、評価項目マニュアルも頻繁に更新されます。
そのため、これまでに行われた認証は「先行認証」と呼ばれています。
2019年5月31日に第1回が開始され、これまでに3回の募集がありました。
現在では、2020年11月5日にCASBEEウェルネスオフィス第4回先行認証の受付が終了しており、次回の募集開始時期は未定です。(2020年2月現在)
最新情報はIBECの以下のページにて告知されます。
CASBEEウェルネスオフィス評価認証 | (一財)建築環境・省エネルギー機構 [IBEC]
スマートウェルネスオフィス認証との違い
ウェルネスオフィス認証には、
- CASBEEーウェルネスオフィス認証
- CASBEEースマートウェルネスオフィス認証
の2つがあります。
CASBEE-スマートウェルネスオフィス認証とは、CASBEE-ウェルネスオフィスツール(評価項目)に加えて、CASBEE-不動産との複合評価によって評価を決めるものです。
認証名 | CASBEE -ウェルネスオフィス | CASBEE -スマートウェルネスオフィス |
評価ツール | CASBEE-WO | CASBEE-WO + CASBEE-建築(新築) CASBEE-建築(既存) CASBEE-不動産のいずれか |
評価員 | CASBEE-WO評価員 | CASBEE-WO評価員 CASBEE-建築評価員 CASBEE-不動産評価員 |
CASBEE-スマートウェルネスオフィスの方が評価項目が多く、取得が難しくなっています。
オフィス健康チェックリストで簡易評価
CASBEEオフィス健康チェックリストは、実環境での良し悪しをワーカーに直接問う質問票です。
CASBEE認証シリーズにはこのようなチェックリストが用意されており、建築の専門家がいなくても簡易的な評価が可能になっています。
質問内容はマニュアルの評価項目とおよそ1対1で対応しており、チェックリストで高評価を目指すことが認証での高評価に直結するようになっています。
Q1:オフィス内の特に作業場所(主に滞在するデスクなど)の環境や設備について
「緑を感じることのできる植栽などがある」
評価項目 | 得点 |
非常によく当てはまる | 3点 |
やや当てはまる | 2点 |
あまり当てはまらない | 1点 |
まったく当てはまらない | 0点 |
CASBEEオフィス健康チェックリスト
ヒキダシ|GREEN COMPANYが提供するサービス
CASBEEウェルネスオフィスでは、植物をはじめとした自然要素を取り入れたバイオフィリックデザインの空間を評価しており、室内外への植栽の導入を求める評価項目がいくつかあります。
植物のプロ・空間デザインのプロがチームになっているヒキダシ|GREEN COMPANYは、認証取得を前提に建築設計者や室内設計者と足並みを揃え、専門的な知識やアイデアをもとにしたご提案を行います。
また、プランニングだけでなく、施工や植物のメンテナンスまでトータルで実施致します。
参考文献・論文
健康経営オフィスレポート-経済産業省 平成27年度
健康経営21 厚生労働省
不動産鑑定評価における環境性、快適性、健康性の評価に関する検討業務-国土交通省 平成31年
次世代ヘルスケア産業協議会健康投資WG(第24回)-林立也 2020
オフィスビルの環境性能とウェルネス-田辺新一 2019
執務者の作業効率の改善・健康増進に向けた執務環境主観評価ツールの開発-安部祐子 白石靖幸 林立也 伊香賀俊治 安藤真太朗 2020